レビューとメモ

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少年マンガにおける武器


 少年マンガにおける武器の問題をメモ的に。


 この点においては「ONE PIECE」が一番わかりやすく


 ルフィ=拳 ゾロ=剣 サンジ=蹴り ウソップ=射撃 ナミ=魔法のスティック


 みたいな割とマンガ・アニメの歴史における武器の定型を持ってきている。


 そしてまた、この作中の強さの序列がそのままその武器の人気の序列とも近いのではないか。


 日本のヒーローの歴史を辿ると、最初が


 鉄腕アトム=拳 赤胴鈴之助=剣 月光仮面=銃


 と正にONE PIECEと同じような構成になっている。「蹴り」は少ないが、生身で戦うヒーローは大体蹴りも使うので、拳と蹴りは一緒になっていると言っても良いだろう。そして、このうち鉄腕アトムがロボット=異形の存在であるのもまた重要な所であろう。


 これを踏まえて、ジャンプの歴史を考えよう。


 ジャンプにおけるバトル漫画の主要な流れを考えると、言うまでもなく先ず


 「リングにかけろ」=ボクシング=拳


 が最初の大ヒットとなる。これは不良マンガの喧嘩のタイマンの延長であると思うが、やはり、武器を使うより、生身の素手で戦う方が少年に真似やすく親近感を得られるというのはあるのだろう。


 次に同じ車田正美による「風魔の小次郎」が来る。風魔の小次郎は「剣」で戦う漫画であるが、リンかけ程の人気は得られなかったので、ここで剣よりも拳で戦う方が主流という事が確定したと言っても良いだろう。これはようやく最近になって「鬼滅の刃」が序列を覆す事になるのだが、ジャンプの掲載順的にはワンピースに勝ったとは言い難いので、これもまあ完全に覆したとも言えないのではないか。そして、何故か「剣」を扱うマンガは女性人気が高いものが多いという法則も実はあるように思う。


 この時、ジャンプバトルは「キン肉マン」のヒットで生身の戦いに格闘技要素も加わっている。少し遅れて「北斗の拳」はそのものズバリ題名にもある「拳」で戦いながら、経絡秘孔という特殊技能を入れて「異能バトル」の時代を予見させるだろう。絵柄は違うが、ONE PIECE北斗の拳のバトル表現はかなり近いものがあるように思う。というより、北斗百裂拳の描写はその後のジャンプのスタンダードの一つと言っても良いのかもしれない。もちろん、このルーツもリンかけにあると言っても良いのかもしれないが。


 この時、もちろん、キン肉マンも超人という異形たちの物語だから異能バトルの側面があり、本格的に時代が「超人たち」の「異能バトル」に主流が変わり始めた前兆だと言って良いだろう。その後のドラゴンボールONE PIECEといった主流が異形を交えての物語だと考えると、ジャンプの主流を決定づけたのがこの時期ではないか。


 このあたり(1979)から、大友克洋が「AKIRA」の原型となる「Fire-ball」を描くなど、時代的に超能力バトルが流行っていることも見過ごせない。「AKIRA」が1982からなので、80年代半ば頃にはリアルな描写の中にも異能バトルが入り込んでくると言っても良いだろう。90年代頃は大友克洋の表現は手塚治虫以来の漫画表現の革新と見なされていたところがあるので、この流れがジャンプ漫画に与えた影響も多分大きかったのはずだ。少なくとも、鳥山明はある程度影響を受けたのではないかと思う。メカ描写などに共通するものを感じるので(似たようなものに影響を受けた同時代性かもしれないが)


 さて、ここで鳥山明といえば「かめはめ波」を考えなくてはならないだろう。「ONE PIECE」の並びですぐに気づいた人は気づいたかもしれないがジャンプ史上最大の必殺技とも言える「かめはめ波」は果たして武器として、どこに当たるのか。


 これはやはり「発勁」の延長なので「拳」と考えるのが妥当だが、飛び道具でもあるので、そのルーツを少し探ってみよう。


 一つには、前述の通り、「ドラゴンボール」の時代には超能力バトルが当たり前になってきてるというのがあるので、その延長の表現ともみなせるだろう。しかし、そもそものルーツはキン肉マンの元ネタであるウルトラマンの「スペシウム光線」まで遡っても良いのではないか。ここで「光線」が日本のバトル表現に欠かせないものになった面はあるように思う。そもそも悟空は宇宙人だし。かなりウルトラマンにも近い。


 しかし、直接の元ネタはといえば、自身の作品「Dr.スランプ」の「んちゃ砲」にあると言って間違いなく、その意味では、口から火を吐くゴジラの方が元ネタとして強い可能性もある。いずれにしても、「かめはめ波」は日本の特撮表現の延長と言っても良いように思うし。そしてまたギャグ表現故の非常識の延長でもある。


 このギャグとシリアスの半ばの境界というのも少年マンガのバトルにおいて重要だ。「ドラゴンボール」はそもそもそういうマンガだが、元々のジャンプのバトル漫画の元祖と言っても良い「アストロ球団」も当時としては真面目なのかもしれないが、今読むと半ばギャグのように読める面もあるように日常から逸脱した表現はギャグになりやすい。これは「リングにかけろ」や「キン肉マン」「キャプテン翼」「北斗の拳」などのツッコミの多さにも繋がるところがあるだろう。ここから「ドラゴンボール」を折り返し地点として「ONE PIECE」や「ハンター×ハンター」など最初から異能を前提として話の整合性を合わせてリアリティを高めていった表現が増えていくのではないか。このリアリティが「ヒロアカ」「ワートリ」「鬼滅」などでは、かなり、もはや当たり前の前提として描かれているように思う。そして、拳や斬撃が「飛ぶ」のも、もはやジャンプでは当たり前の表現だ。(「ヒロアカ」「ワートリ」「鬼滅」では意外とそうでもない気もするが、少なくともその前の「ONE PIECE」「NARUTO」「BLEACH」までは普通だろう)


 では、ジャンプにおいて「拳が飛ぶようになる」のをどの段階に求めるべきか。


 そもそもはジャンプ以前、「拳が飛ぶ」に類似する技は赤胴鈴之助の「真空斬り」に求められるかもしれない。まあ、合気道のある国なので、その延長なのだろう。これがその後、カンフーブームなども受けて、発勁が主流となって行くのではないか。


 ジャンプ表現的には、やはり「リングにかけろ」の段階から拳は飛んでいる。実際飛んでると表記していたかどうかは記憶が曖昧だが、どう見ても腕のリーチと相手が吹っ飛ぶ位置が合ってない上に名前が「ギャラクティカマグナム」だったりするので、これは飛んでいるだろう。影響力も考えると、ここを起点とするのが筋なのかもしれない。


 しかし、その前の時代、ロボットではあるが「ロケットパンチ」でお馴染みの「マジンガーZ」も実はジャンプで連載されていた漫画ではある。という事はジャンプ表現的にはともかく、アニメを見て、ここが影響した可能性も大きい気もする。もちろん、その場合、ロボットのギミックとして拳が飛んでいるだけでジャンプ表現の主流とは言い難いかもしれないが、拳が飛ぶことにマジンガーZの影響は少なからずあるだろう。


 この後、少し経ち「北斗の拳」は完全に絵的に「拳」が飛んでいるように見える。まあ、何発もパンチを打っている表現が飛んでいるように見えるだけなのであるが、その延長で、もはや拳が飛んでる事でいいやという感じになっていったのかもしれない。

 
 車田正美の最大のヒット作となる「聖闘士星矢」もアーマーを加えて、よりヒーロ然とさせつつ、結局は拳が武器の超人バトルに至る。ここでは最初の方は音速などを理由に最もらしい表現をしていたが、途中からは完全に謎の技が無数に繰り広げられる超常バトルになっており、ある種のジャンプ表現の完成形の一つとなっていたと言っても良いのではないか。これ以降、ジャンプでは見開きで特にどうなってるかよく分からないカッコイイ描写と太文字でデカく描かれる大袈裟な技名=強い技という事になっていると思われ、もちろん、これはリンかけの時代からやっていることの延長でもあるけれど、そのインフレのピークがここで完成を迎えた気もする。


 面白いのは、このあと、表現的に「るろうに剣心」「BLEACH」またはパロディ的ではあるが「シャーマンキング」など、剣を使うバトルにこの表現が適用される事が多い事だ。「鬼滅の刃」もこの流れを汲んでいて、鬼滅自体は割とリアル寄りな漫画ではあると思うけれど、必殺技の成り立たせ方はかなり車田メソッドに忠実なのではないか。


 では、この流れが何故そうなったのか?といえば、それは同時代に並行してやっていた「ドラゴンボール」の影響であろう。「ドラゴンボール」がジャンプの頂点に立ったために「拳」を使う漫画はドラゴンボールの影響から逃れられなくなったのだと思う。いわば、「拳」の表現の主流が「リングにかけろ」からこの時「ドラゴンボール」に移ったとも言えるのではないか。

 

 この後、ONE PIECEはゴムゴムの発明で「拳が飛ぶ」という事に理由をつけて、本格的に異能バトルが主流の時代が始まる事になる。


 そして、遡ると、この異能バトルは、やはり、RPG由来の「剣と魔法」の世界も関係してくるのだろう。ジャンプでは「バスタード」が初めに近いと思うが、本格的には「ダイの大冒険」などから、剣と魔法の世界が並行してバトル漫画として始まる事となる。この武器と魔法の組み合わせによる表現は、細かくはワートリなどにも受け継がれていると思うが、話が長くなってきたので、それはまた後で書く。